国際協力の現場から
国際協力の現場から2017/09/09ツイート
FRJ:難民の第三国への定住の道は、今
国を追われ、難民となった人々の中には、自力で他国に逃れ庇護を求める他に、「第三国定住」という道があります。難民の中には、日本のようにはじめから遠く離れた国へ逃れることができる人もいれば、母国にできる限り近い国へ逃れる人もいます。現在、シリアからは、隣接するトルコへ約310万人、レバノンへ約100万人、ヨルダンへ約66万人が逃れており、これら3ヶ国だけをあわせても全世界に散らばるシリア難民の約9割を占めます。︎そのため、こうした隣接国が大量の難民を受け入れることは、その国々にとって大きな負担となることが懸念されます。そこで、こうした一時庇護国から、新たに受入れに合意した第三国に定住するという「第三国定住」と呼ばれる難民の受入れがあります。
たとえば、日本では、1970年代おわりから2000年代はじめにかけて、1万人以上のインドシナ難民を受け入れた歴史があります。この当時、多くのインドシナ難民が、一時庇護国から、日本を含めた「第三国」に受け入れられていきました。その後2010年より、日本では正式に「第三国定住制度」が設けられ、試験期間を経て現在も毎年約30名の「第三国定住難民」が受け入られています。
2016年、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の統計では、世界で6,500万人が紛争や迫害により避難を余儀なくされるなか、1,500万人を超える人々が国境を越えて難民となり、第二次世界大戦以降、最悪の状況といわれています。母国への帰還や第一庇護国で保護を受けることが望ましいものの、改善の兆しがみえない中で事態がただただ深刻化していくことが危惧されています。2016年は全世界で120万人が第三国定住を希望しましたが、うち受け入れられたのは16.2万人と全体の2割にも達しません。自力で欧州へ渡ろうとする難民への対応が引き続き課題となる中で、第三国定住はいま、岐路に立たされています。2016年9月に193カ国の政府代表より採択された「ニューヨーク宣言」では、第三国定住の戦略的な活用やビジネス・セクターの参画などが言及されました。従来の「難民」としての受け入れに留まらず、留学生への奨学金や地域住民を主体とする受け入れなど、様々な形で、より多くの難民が受け入れられる新たな取り組みとそれを可能にするパートナーシップが模索されています。そのような中、日本では昨年、安倍首相より、5年間で150人のシリア人留学生、そしてその家族受け入れを行うことが発表されています。第三国定住難民の受け入れ規模は、欧米諸国が多くを占める傾向はありますが、日本政府のシリア人留学生の受け入れは、こうした国際社会の声に応えたものでした。
今年6月12月〜14日にかけて、スイス・ジュネーブで難民の第三国定住に関する三者協議(Annual Tripartite Consultations on Resettlement – ATCR)が開かれました。ATCRは、第三国定住による難民を受け入れている国の政府、NGO、国際機関の三者が参加し、第三国定住をより良く実施していくための方策について話し合う国際会議で、1995年から毎年開催されています。議長は各国の持ち回りで、政府とNGOの代表が共同でつとめています。 また、毎年の第三国定住難民の受け入れ規模によって、各国からの参加枠(人数)は決められています。日本は、政府から2名、NGOから2名がそれぞれ参加できます。議長国からの要請を受け、現在NGO枠については、ネットワーク団体であるなんみんフォーラム(FRJ)が参加者の調整を行っています。
今年のATCRへは、日本のNGOからは、ともに第三国定住の問題に関わられてきた、笹川平和財団と難民支援協会からそれぞれ1名が参加し、日本での取り組みの発表を行いました。議長国はニュージーランドが務め、「New Partners – New Approaches(新しいパートナー、新しいアプローチ)」がテーマとされました。まさに、今までの伝統的な難民受け入れのアクターではないステークホルダーの参加や、新しい受け入れの形に重きがおかれました。期間中、34カ国から政府とNGOの代表が約120名、国際機関からは120名、計約240名が参加し、最新のグローバルニーズや、地域ごとの課題、受け入れ国側の課題や改善策について情報共有と協議が行われました。なんみんフォーラムでは8月末に本会議に関する報告会をNGO向けに開催し、代表者からの報告をいただきました。
代表者からは、今回のATCRでは、特に、非営利セクターやビジネス・セクターによる新たな取り組みが注目されていたことや、国際社会や各国の取り組み、日本やアジア太平洋地域が国際社会の中で担っている役割に関する共有がありました。日本では民間で初めての試みとして、昨年、難民支援協会がトルコに暮らすシリア難民を日本語学校の留学生として受け入れる取り組みを開始しました。今年春に無事6名が来日し、生活をスタートさせています。報告会では、本プロジェクトに関する報告もありました。こうした民間団体が主導する取り組みのほか、カナダなどでは、地域住民たちが集まって受け入れの意思を示し、資金の目処がつけば難民をそのコミュニティが受け入れることができるというモデルも開発されてきました。その他、今年に入っては、民泊仲介サービスのAirbnbが、世界中の難民に無料で部屋を提供するホストコミュニティ「Open Homes Platform」を立ち上げるなど、ビジネス・セクターの活躍にも期待が集まっています。フランスでは、雇用のマッチングによる受け入れなども始まっているようです。
自国の政府だけに任せるのではなく、地域コミュニティや民間での取り組みに注目が集まっています。これからも、他国の取り組みに多くを学びながらも、日本の強みを活かして何が出来るのか、より良い成果につながるよう、市民社会での議論、そして各ステークホルダーとの対話を続けていきたいと思います。(なんみんフォーラム事務局)